第1章 第1話 完全無料送迎
雨の夜、終電を逃した人たちが並ぶ駅前で、「完全無料送迎」をうたうワゴンが客を集めている。無登録の異議申立て代行屋・御影トワは、依頼人の位置情報を追って第七埠頭へ向かい、防音壁の向こうで荷物を運ばされている人々の中に依頼人を見つける。
絵は生成AIで作り、構成とセリフの調整、取捨選択は人間が行っています(AI生成を含む)。 小説版を読む(note)
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ページごとの場面とセリフ
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雨の夜の澪京中央駅北口。人があふれる駅前で、完全無料送迎をうたうRouteHomeのワゴンを前に、トワとタグが依頼人のメッセージを確認する。
- (題字)第1章 無料の値段/第1話 完全無料送迎
- (地の文)雨の夜は、規約がよく売れる。
- (地の文)濡れた人間は判断が雑になる。そういう時間帯ほど、画面の下に出てくる小さな文字は読まれない。
- (看板)澪京中央駅 北口
- (画面)混雑中
- (看板)完全無料送迎/今夜の帰宅を、0円で。
- トワ「無料、ね」
- タグ「一番高いやつだ」
- トワ「毎回それ言うな」
- タグ「毎回当たるからな」
- (画面・依頼人のメッセージ)23:48にRouteHomeを使った
- (画面・依頼人のメッセージ)日付が変わったころから、勝手に身体が動く
- (画面・依頼人のメッセージ)第七埠頭にいる
- (画面・依頼人のメッセージ)帰れない
- (地の文)依頼人の名は佐伯透子。三十四歳。食品卸会社の事務員。
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依頼人についての補足と、規約圏の濃さを確かめるトワとタグのやり取り。
- (地の文)犯罪歴なし。公共同意庁への異議申立て歴なし。変な投資にも宗教にも入っていない。
- (地の文)一時間ほど前、終電を逃して無料の送迎サービスを使った。ただそれだけだった。
- トワ「見えるか」
- タグ「規約圏は薄い。車そのものより、乗った人間に貼りついてる」
- トワ「執行条件は?」
- タグ「そこまでは嗅げねえ。俺は便利な犬じゃない」
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ワゴンの前で、スタッフが「社会実証キャンペーン」を理由に登録を勧めている。屋根の認証灯は、公的な認証マークに似せただけのものだった。
- トワ「犬とは言ってない」
- タグ「扱いが犬なんだよ」
- スタッフ「アプリの登録だけお願いします!運賃、迎車料金とも完全無料です。今夜は社会実証キャンペーン中ですので!」
- (地の文)社会実証。
- (地の文)便利な言葉だ、とトワは思った。
- (地の文)実験台と言えば誰も並ばないが、社会実証と言えば自治体まで後ろ盾に見える。
- (地の文)ワゴンの屋根に、小さな認証灯がある。
- (地の文)公共同意庁の認証マークではない。似せてあるだけだ。
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トワは乗らずに駅舎脇の庇の下へ移り、RouteHomeの公式ページと、画面の下に薄く置かれた利用規約を開く。
- トワ「行くぞ」
- タグ「乗るのか?」
- トワ「まだ」
- (地の文)トワは列から外れ、駅舎脇の庇に入った。
- (地の文)RouteHomeの公式ページを開く。
- (画面)運賃 0円
- (地の文)肝心の規約は、画面最下部に薄い灰色で置かれていた。
- (画面)《RouteHome夜間無償送迎サービス利用規約》
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規約の文字数をめぐるトワとタグの掛け合いと、条文の見出しを流し読みするトワ。まだ白い亀裂は見えない。
- タグ「何文字?」
- トワ「一万八千四百六十二」
- タグ「読ませる気がある数字じゃねえな」
- トワ「読ませる気がないなら、もっと長くする」
- (地の文)第一条。定義。
- (地の文)第二条。目的地。
- (地の文)第三条。利用資格。
- (地の文)文字列のどこにも、余白視で見えるはずの白い亀裂はまだない。
- (地の文)契約の外から読んでいるだけでは、規約と現実が噛み合う場所までは見えない。
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流し読みの指が第8条で止まる。無償と引き換えに「翌暦日の可処分時間」を譲渡するという条文が、画面に大きく出る。
- (地の文)流していた指が、第八条で止まった。
- (画面)《本サービス利用者は、無償運送への協力対価として、翌暦日における可処分時間のうち最大八時間を運営者へ譲渡することに同意する》
- トワ「ゼロ円」
- タグ「金はな」
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「それ、無料じゃない。お前の『明日』が代金だ」。第9条と第10条の条文が画面に出る。
- タグ「それ、無料じゃない。お前の『明日』が代金だ」
- トワ「私は契約してない」
- タグ「客の話」
- (地の文)第九条には、譲渡された可処分時間を使って、運営者が「安全協力活動」への参加を求められるとある。続く第十条には、正当な理由なく拒否した場合、執行体その他の履行補助を利用できると書かれていた。
- (画面)《第9条(安全協力活動)運営者は、第8条により譲渡された可処分時間の範囲内で、利用者に安全協力活動への参加を求めることができる。》
- (画面)《第10条(履行補助)利用者が有効に成立した安全協力活動を正当な理由なく拒否した場合、運営者は規約圏により生成される執行体その他の履行補助手段を利用できる。》
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画面の一文だけが妙に古いと感じるトワ。タグは画面に顔を寄せ、「これ、臭う」「古い避難規約」と答える。
- (地の文)その一文だけ、妙に古い。
- トワ「……何だ?」
- タグ「これ、臭う」
- トワ「何が」
- タグ「古い避難規約」
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「参照の癖」「白紙災害の初期」というタグの答え。トワは画面を閉じ、依頼人・佐伯透子の位置情報を開く。
- トワ「どの条文」
- タグ「分からん。文じゃねえ。参照の癖だ。昔のやつと似てる」
- トワ「昔って」
- タグ「白紙災害の初期だよ」
- (地の文)トワはそれ以上聞かなかった。
- (地の文)画面を閉じ、佐伯透子の位置情報を開く。
- (画面)第七埠頭共同物流区
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第七埠頭共同物流区は、澪京中央駅から車で二十五分。トワは「先に、何を買われたのか見る」と現場へ向かう判断をする。
- (地の文)第七埠頭共同物流区。
- (地の文)澪京中央駅から車で二十五分。
- トワ「先にそっちを見る」
- タグ「無料送迎は?」
- トワ「逃げない」
- タグ「客は増えてるぞ」
- トワ「だから先に、何を買われたのか見る」
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午前一時十八分、第七埠頭共同物流区。正門の端末に「関係者以外立入禁止」と赤く出ていて、トワはフェンス沿いに歩き出す。
- (地の文)午前一時十八分、第七埠頭共同物流区にはまだ灯りが点いていた。
- (看板)関係者以外立入禁止
- (地の文)当然だった。
- (地の文)トワはフェンス沿いに歩いた。
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フェンスの内側の案内板には「安全協力活動 実施中」。運営主体と、物流・人材派遣・倉庫管理の6社(社名は伏せ字)が並ぶ。
- (地の文)フェンスの内側には案内板があった。
- (看板)安全協力活動 実施中
- (看板)参加者の安全確保のため、外部からの呼びかけには応答できません
- (地の文)参加者。
- (地の文)都合のいい呼び名だった。腕を勝手に動かされている人間も、文字にすれば自発的に加わったように見える。
- (看板)澪京モビリティサポート株式会社
- (看板)○◆物流
- (看板)△□人材派遣
- (看板)◇●倉庫管理
- (看板)▲☆物流
- (看板)◎▽倉庫管理
- (看板)■△人材派遣
- (地の文)どれも物流、人材派遣、倉庫管理。
- (地の文)送迎に必要な会社には見えない。
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「写真」とトワに頼まれたタグは不満を言い、先に何かを見つける。倉庫の隙間の、透明な防音壁の向こうを人間が列になって歩いている。
- トワ「写真」
- タグ「俺、端末じゃねえぞ」
- トワ「覚えとけって意味」
- タグ「最初からそう言え」
- タグ「いた」
- (地の文)倉庫と倉庫の隙間。
- (地の文)透明な防音壁の向こうを、人間が列になって歩いている。
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作業服ではなく、駅でそのまま拾われてきたような服装の人々が、無言でコンテナを運んでいる。その中に佐伯透子がいた。トワは防音壁を叩いて名前を呼ぶ。
- (地の文)作業服ではない。
- (地の文)スーツ。
- (地の文)ワンピース。
- (地の文)学生服。
- (地の文)駅でそのまま拾われてきたような服装の人間たちが、無言でコンテナを運んでいた。
- (地の文)その中に佐伯透子がいた。
- (地の文)端末の写真より髪が乱れている。
- (地の文)顔色も悪い。
- (地の文)それでも足だけは一定の速さで動き続けていた。
- トワ「佐伯透子」
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佐伯の目だけが動いてトワを見る。声は聞こえないが、口の形は「助けて」と読める。うなじに《履行中》の文字が浮かび、肩から袖へ這っていく。本人の意思に反して、腕が荷物を持ち上げる。
- (地の文)佐伯の目だけが動いた。
- (地の文)トワを見る。
- (地の文)口が開いた。
- (地の文)声は聞こえない。
- (口元に添えた小さな縦書き文字)助けて
- (地の文)そう読めた。
- (うなじから肩・袖へ浮かぶ黒い文字)《履行中》
- (地の文)佐伯の右手が震えた。
- (地の文)本人はコンテナを床へ置こうとしている。
- (地の文)腕は命令を無視し、次の荷物を持ち上げた。
- (地の文)トワは防音壁から手を離した。
16ページ目
トワが「これ、送迎サービスじゃない」と言うと、タグは「知ってる」と答え、佐伯たちを見ながら、その正体を告げる。
- トワ「タグ」
- タグ「おう」
- トワ「これ、送迎サービスじゃない」
- タグ「知ってる」
- トワ「じゃあ何だ」
- タグ「契約した人間を、翌日だけ荷物にするサービスだ」
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倉庫の奥で緑色のランプが点き、作業終了までの残り時間が示される。トワは時刻を確認し、「長いな」とつぶやく。
- (地の文)倉庫の奥で、緑色のランプが点いた。
- (地の文)作業終了まで、あと六時間四十二分。
- (地の文)トワは時刻を確認した。
- トワ「長いな」
- タグ「何が」
- トワ「六時間」
18ページ目
タグが「契約一個潰すには、十分ある」と言う。トワは返事をせず、濡れたフェンスから離れていく。第1話の終わり。
- タグ「契約一個潰すには、十分ある」
- (地の文)トワは返事をせず、濡れたフェンスから離れた。
制作メモ
- 絵は生成AI(ChatGPT)で1頁ずつ作っています。台詞や規約の文面、画面や看板の文字は、原作の小説と一字ずつ照合(Claude)してから採用しています。
- 全ページを1024×1536ピクセルに揃えています。ページ番号は画像に入れていません。
- 作っている途中の失敗や直しは、制作日記に書いています。

















